漫才は観るだけでも十分に面白い。
しかし、その奥にある構造や戦略を理解すると、笑いの楽しみ方は格段に広がります。
本記事で紹介するのは、現役漫才師ならではの視点で書かれた3冊の著作です。
これらは単なる自伝や人生論ではなく、「漫才やお笑いを理論的に語ったエッセイ」に特化しています。M-1グランプリを起点に、ネタの構造、舞台での戦略、芸人の思考の深さまで、多角的に読み解くことができます。
読むことで、漫才の見方が変わり、過去のネタやM-1大会も新たな視点で楽しめるようになるー
そんな一冊たちです。
なぜこの3冊をおすすめするのか?選んだ理由と共通点

お笑い芸人が書く本には、エッセイや自伝、舞台裏のこぼれ話をまとめたものなど、さまざまな種類があります。
その中でも今回取り上げる 塙宣之『言い訳』/石田明『答え合わせ』/髙比良くるま『漫才過剰考察』 の3冊には、はっきりとした共通点があります。
それは「漫才という芸を言葉で分析し、理論として提示している」という点です。単なるエピソード紹介や芸人の日常記録にとどまらず、舞台で行われる漫才の仕組みや思考の過程を、書き言葉で丁寧に掘り下げています。
共通点① 漫才の理論化と分析
3冊すべてに貫かれているのは「漫才をどう捉え、どう語るか」という試みです。
塙宣之は審査員の立場から、漫才を「勝敗のつく競技」として見つめ、その基準を言葉にしました。石田明はコンビでの創作の現場を記録し、笑いが生まれる過程を文章化しています。そして髙比良くるまは、自らを“分析型芸人”と位置づけ、漫才の理論を体系化しようと挑戦しています。
いずれも「舞台でしか伝わらない」と思われがちな芸を、言葉によって可視化しようとする点で共通しています。これは芸人本の中でもかなり特異であり、読み手にとっては「漫才を外から理解する」という新しい楽しみ方を与えてくれます。
共通点② M-1グランプリとの関わり
もうひとつの共通点は、3冊すべてが M-1グランプリ と深く関わっていることです。
立場はそれぞれ異なりますが、3冊とも「M-1」という共通の舞台を通じて、漫才という芸の価値を問うています。
- いずれも「M-1」を軸に語っている(勝ち方・評価基準・漫才の方向性)。
- 読者層も「M-1を見て漫才をもっと理解したい」人に刺さる。
単なる「芸人の本」ではなく、漫才論を掘り下げる3冊のセットとして読む意義があります。
漫才過剰考察|令和ロマン・髙比良くるま


本書のあらすじ
本書はタイトル通り「漫才の徹底考察」に焦点を当てた一冊です。
M-1グランプリの歴史を振り返りながら、2023年大会の詳細分析や2024年の展望を提示。さらに寄席文化の特徴、東西南北での笑いの違い、顔ファン論争、漫才の世界進出の可能性まで、多角的に論じられています。
また、霜降り明星・粗品さんとの2万字を超えるスペシャル対談も収録。芸人同士だからこそ語れる本音や展望が垣間見える点も本書の大きな魅力です。
著者プロフィール
髙比良くるまは1994年生まれ、東京都練馬区出身。慶應義塾大学のお笑いサークルで相方・松井ケムリと出会い「令和ロマン」(当時:魔人無骨)を結成。東京NSC23期出身である。
- メンバー:左)髙比良くるま 右)松井ケムリ
- 所属事務所:吉本興業(松井ケムリのみ)
- 結成年月:2018年4月
- YouTubeチャンネル:official令和ロマン【公式】
▶ 公式プロフィール
2023年の「M-1グランプリ」では、芸歴5年9ヶ月という最短記録での優勝を達成。翌2024年には「ABCお笑いグランプリ」、「M-1グランプリ」を制し、M-1史上初の2連覇を達成しました。
そして2025年、単独ライブ「RE:IWROMAN」が2026年5月に開催されることが発表されました。横浜・Kアリーナ(収容2万人)での開催やドローンを使った斬新な演出で大きな話題を呼びました。
この勢いの中で改めて読むと、くるまさんの考察がどれほど先を見据えたものであるかが分かります。
レビュー要約
総じて、理屈で漫才を深く理解したい読者に高く評価される一冊です。
こんな人におすすめ
漫才過剰考察は、令和ロマンが好きなのファンの方だけでなく、たくさんの人におすすめできる一冊です。
- M-1グランプリが好きで、舞台裏をもっと深く知りたい人
- 単なるエッセイではなく、分析や批評として「漫才本」を読みたい人
- 新しい視点で漫才やお笑いの楽しみ方を広げたい人

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか|ナイツ・塙宣之


本書のあらすじ
2018年にM-1審査員として一躍注目を浴びた塙宣之が、自身の経験や審査員としての視点をもとに漫才を徹底解剖した一冊。
関西出身ではない芸人としてM-1チャンピオンになれなかった塙だからこそ語れる、歴代王者の強さの秘密やM-1必勝法が綴られています。「ツッコミ全盛時代」「関東芸人の可能性」「フリートークの重要性」といった具体的なテーマに加え、自身の代名詞である「ヤホー漫才」誕生の裏側も収録。
漫才師にとって伝説的存在とされる『紳竜の研究』の精神を継ぐ、令和時代の漫才バイブルとも呼べる内容です。
著者プロフィール
塙宣之は1978年生まれ、千葉県我孫子市出身。2000年に土屋伸之とともに「ナイツ」を結成。2015年には漫才協会副会長に就任し、2023年からは会長としてお笑い界を牽引しています。
- メンバー:左)塙宣之 右)土屋伸之
- 所属事務所:マセキ芸能社
- 結成年月:2000年4月
- YouTubeチャンネル:ナイツ Official YouTube Channel
▶ 公式プロフィール
ナイツは「ヤホー漫才」に代表される独特の言葉遊びスタイルで人気を獲得し、2008年から3年連続でM-1グランプリ決勝に進出。以降も「THE MANZAI」準優勝、NHK新人演芸大賞ほか数多くの賞を受賞し、現在も第一線で漫才を披露し続けています。
さらにテレビ・ラジオ・舞台と幅広い活躍を見せる一方、M-1審査員として後進を評価する立場にも立つなど、多角的にお笑い界を支える存在。芸人・評論家・協会会長という三つの顔を持つ、希少な存在です。
レビュー要約
総じて、漫才を「文化論」として掘り下げつつも芸人ならではのユーモアで読みやすい、実用性と娯楽性を兼ね備えた一冊といえます。
こんな人におすすめ
言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのかは、ナイツのファンに限らず幅広い層におすすめできる本です。
- M-1や漫才をもっと深く理解したいお笑いファン
- 芸人の思考法や舞台裏に興味がある人
- 表現やプレゼンの技術に関心がある人

答え合わせ|NON STYLE・石田明


本書のあらすじ
『答え合わせ』は、M-1グランプリ2008年王者であり、自他ともに認める“漫才オタク”であるNON STYLE・石田明が、自身の視点から漫才を徹底的に分析した一冊です。
本書では「偶然の立ち話が漫才の原点」「ベタこそが最強」「アホは才能」といったシンプルかつ本質的な命題から、「システム漫才の落とし穴」「賞レースでネタ選びを誤る理由」など実戦に即した分析まで、多角的に漫才を捉え直しています。
また、「M-1はじゃんけん大会から“何でもあり”大会へ」といった独自のM-1論や、令和ロマンに授けた「漫才身体論」など、後進の芸人に直接伝えた理論も収録。
石田の知見を惜しみなく公開した“現代漫才の教科書”とも言える内容です。
著者プロフィール
石田 明は1980年生まれ、大阪府出身。2000年に井上裕介とともに「NON STYLE」を結成。Baseよしもとのオーディションを経て、2001年に吉本興業所属としてプロデビュー(NSC大阪校22期生と同期扱い)。
- メンバー:左)石田明 右)井上裕介
- 所属事務所:吉本興業
- 結成年月:2000年5月
- YouTubeチャンネル:NON STYLEチャンネル
▶ 公式プロフィール
NON STYLEは2008年に「M-1グランプリ」優勝など、数々の賞レースのタイトルを獲得。石田はネタ作成を一手に担い、緻密な構成と独自の発想で「システム漫才」を確立。圧倒的なスピード感と手数の多さを誇る掛け合いが特徴で、全国的な人気を獲得しています。
現在はテレビ・ラジオだけでなくYouTubeや舞台活動も活発に行い、石田さんは脚本・演出や俳優業にも挑戦。さらにNSCの講師やYouTube企画を通じ、後進の育成にも力を入れており、芸人としての枠を超えた活動が注目されています。
レビュー要約
総じて、「漫才を深く知りたい人」にとって実用性が高い一冊であり、特にM-1ファンや芸人志望者にとっては“教科書”としての価値を持つ作品といえます。
こんな人におすすめ
答え合わせは、NON STYLEファンはもちろん、漫才やM-1に関心のある人すべてにおすすめできる本です。
- 漫才の仕組みや本質を理論的に理解したい人
- M-1グランプリをより深く楽しみたい人
- 芸人志望やお笑いを学びたい学生・ファン

まとめ
今回紹介した3冊
- 『漫才過剰考察』(令和ロマン・髙比良くるま)
- 『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』(ナイツ・塙宣之)
- 『答え合わせ』(NON STYLE・石田明)
はいずれも、漫才の奥深さを丁寧に言葉へと落とし込んだ貴重な一冊です。著者いずれの著者も漫才師として第一線で活躍しており、評論家や研究者の視点とは異なる「現場の実感」が詰め込まれています。
3冊に共通するのは、、M-1グランプリという大会を起点に、漫才の構造や魅力を再考している点です。
読み比べることで、漫才を観る視点が少しずつ変わり、M-1をより多面的に楽しめるようになるでしょう。芸人を目指す人や、お笑いをより深く理解したい人にとっても、学びの多いテキストとなるはずです。
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